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岩手県岩手郡葛巻町葛巻6-11-3
感動してますか?
(『ホルスタインマガジン』1995年11月、12月掲載記事より)
酪農家・獣医師
岩手農村生活アドバイザー
中村 和子
よつば会結成 PARTⅠ
よつば会は、酪農家の若妻のグループとして昭和51年の暮れに結成されました。その頃は何かと苦労の多いお嫁さんたちが集まれる場がなく、たまたま知り合った友達と「自分たちの思いを分かりあえる仲間がほしいね」という事になり、早速十数人に呼び掛けました。みんなの胸の中に同じような思いが大きくなっていて、そこに声をかけられて・・・という訳で意外に早い発足となりました。
発足当時から私は会長兼事務局を引き受けています。小さな活動でもいい、無理のない活動をと心がけ、とにかく「続けること」をモットーにしてきました。家の中にあって外に出にくい、活動しにくいお嫁さん達です。無理はできないと思いました。でも今は「継続は力なり」の言葉通り、自分達の地道な活動が見事に花開いています。
よつば会はどこにも属さない、どこからも資金援助を受けない自主的なグループです。活動は農閑期の11月から4月までで、月1回から2回、会費は発足当時から年千円、あとうは必要な度に自分達で出し合ってきました。
活動内容は自分達で話し合い、酪農に関する勉強会(町内外から講師を招き、時には夫婦で)、料理、洋裁の講習会(会員講師もいる)、忘年会、日帰り研修旅行、家族旅行などです。
まだ子供が小さい時、「酪農家だからと言って、夏休みに海にも連れていけないのは情けない」ということになり、毎年8月第1日曜日は家族旅行の日と決め実行してきました。相談の段階から夫達を巻き込み、当日は大いに動いてもらいました。浜辺で牛乳の無料配布もしました。「子供達を新幹線に乗せたい!」という声があり、日帰りで仙台の動物園行きを企画したこともあります。
結成6周年には記念行事として映画会を主催しました。良い映画があり、多くの子供達に見せたいと私が提案しました。ちょうど自主上映の奨めもあり、不安の中での一大決心でした。企画段階では初めてのことで色々な意見が出ましたが、赤字になったら雄子牛を売ればなんとかなると(当時は高かった)、結局決行することになりました。
チケットの販売、ビラ貼り、会場の設営等々会員も夫達も頑張ってくれました。昼夜2回上映し、牛乳も無料で飲んでもらいました。映画の監督さんが私達の取り組みに感激し、わざわざ東京から手弁当で駆けつけてくれました。蓋を開けてみると、私達の心配をよそに映画会は黒字となり、社会福祉協議会に寄付するというおまけ付きとなりました。このことが自信となりその後人形劇も主催しました。
ところが案の定、女達の自主的なささやかな活動に対して、男達から批判を受けました。「よつば会は集まってグチばかり言っている。」何故グチを言ってはいけないのでしょう。その根底には女は黙って文句も言わずに働くもの、という考えがあるからです。自分を抑えて生活しているのです。グチが出て当然です。ストレスを解消してまた新しいエネルギーを得るのです。それは結局男達のためにもなると思うのですが。
次は「よつば会に入ると気が強くなる」と言われました。何を指してそのように言うのか分かりませんが、たぶん主体性のある、はっきり意見の言う女性(人間として当たり前のこと)を嫌っての事でしょう。今や女性を一人の人間として認め、対等なパートナーとして付き合ってゆかなければならない時代が来ているというのに・・・。
よつば会は多くの障害や批判を乗り越え、長年の活動の積み重ねにより絆も強まり、力強いグループに成長し、今や大きな行事にも取り組めるようになってきました。
よつば会結成 PARTⅡ
自分達の手作り活動、夏の海水浴、家族旅行、6周年記念行事の映画会、人形劇など、みんなで力を合わせて実行し、それぞれが次の活動のステップとなってきました。
今では当たり前のように行われている2年に1度の1泊研修旅行も、今年2月で5回目10年になりましたが、第1回を実行するのに5年を要しました。「一泊旅行に行こうよ!」と何回となく提案しましたが、「そんなこと無理よ」となかなか決断できず、数年が過ぎました。そのうち「行ける人でいいから、とにかく行ってみよう」ということになり、初陣が帆を掲げました。
自分達で計画を立て、旅館、乗り物、運転手の手配もし、経費も出し合いました。酪農家の視察、酪農婦人グループとの交流、加えて観光と盛りだくさんで、夜も賑やかで楽しい旅行となりました。感動的な出だしでした。
この一歩はとても大きな歩みでした。泊りがけの旅行は無理という固定した考えを少しずつ変えていきました。「あの人が行けたのに何で私は・・・」と思う仲間もいたり、また行けなかったことに対する不満を旦那さんにぶつけた方もいたようです。こんな活動が女たちの生活を変え、意識を変え、回りの男達の意識をも変えていくのだと思います。次は2泊で北海道へ、いつかはヨーロッパへと夢は大きく広がっています。無理のない小さな活動も大事ですが、時には思い切って踏み出し既成事実を作ってしまうのも大事なことだと実感しています。
以前から私はみんなの力で資金作りをし、もう少し活動の幅を広げたいと思っていました。町でも各種イベントを開催しているのですが、農作業の忙しい時期とぶつかって参加することができませんでした。ところが5年前から町主催の健康祭りが2月に開かれ、よつば会にとっては大変良い時期なので2回目から参加させてもらっています。手作りのお菓子(ケーキ、クッキーなど)を販売し、無料で何倍でも牛乳を飲んでもらい、またほしい人には搾りたての牛乳を安く分けてもらいます。
3回目からは町民課の依頼により健康祭りで販売される手作りの品物を在宅老人に届けるサービスも引き受けています。けっこう良い資金作りができ、活動の日の昼食も会の方から出せるようになり、こんな小さなことでも嬉しいものです。
去年町を紹介するテレビの取材でアイスクリーム作りを担当しました。自分達の搾った牛乳から生クリームを分離し、初めてアイスクリームを作りました。その美味しかったこと!
それから何回となくグループで作りました。それまで機械は借りてたのですが、役場の方から半額補助の話があり、思い切って機械を買うことになりました。そして町外から体験学習にくる子供達や町内のセミナーでアイスクリーム作りの講師を引き受けるまでになりました。小さなことへのチャレンジが大きく大きく広がっていきます。
よつば会にも2年前から20代、30代の仲間が数人加わりました。ちょうど私達がよつば会を始めたころの年齢です。幼児や赤ちゃんを抱えての参加です。彼女たちが気軽に参加できる会を維持できたことは、私たちにとって大きな喜びです。世代の異なる仲間との交流で、会も活気がでてきました。私たちの経験を彼女たちのために活かしていきたいと思っています。何もない中での出発でしたが、逆にそのことが素晴らしい仲間作りへと発展していったのだと思います。
こんなことをしていて本当に「農村女性の地位向上」につながるのだろうかと自問した日もありました。今では活動を積み上げていく中で、着実に女性の意識が変わり積極的になっていくことを実感しています。そして幸せを自分達の手で掴もうとする女性が農村の未来を明るくしていくのだと思うのです。今までのように縁の下の力持ちとしての存在だけでなく、女性のパワーと感性が村づくりの表舞台に必要となってきています。よつば会がその一翼を担うことができたらと思っています。
『ホルスタインマガジン』(酪農専門月刊誌)1995年4月より1年間「感動していますか!」のタイトルで連載したものより一部抜粋しました。